web小説(試作稿):猟犬になった少女

現在、試作中のweb小説の冒頭部分です。執筆継続できるかわかりませんが取り敢えずアップ。
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▽2019/10/14更新

(仮題)猟犬になった少女。–天使が見た世界–

無表情な少女が白いスクールシャツを赤い鮮血に濡らして佇む姿は、散り忘れていた桜が舞う月夜の山中に異彩を解き放っている。

その少女の小さな手に握られているのはグロックという名のオーストリア製の自動拳銃。
この暴力の象徴は、明るい色の長髪を2つに纏めて下ろした少女の愛くるしさを台無しにしてしまっている。

東京から3時間。ひび割れたアスファルトと生い茂った木々が放置された年月を物語る廃道と、その傍らにある刑務所を思わせる古びたコンクリートの大壁。
ここは訪れる人間も稀な自然が豊かすぎる陸の孤島。

少女は一呼吸を置いて静かに銃を構える。

少女の目に映るのは、灰色の作業服を着たレスラーを思わせるような大男。
地面に座り込みブナの木に力なくもたれかけたその顔は不意を突かれた憎しみと、近い未来に迎える終焉への怯えに支配されている。

「最後に言いたいことはありますか?」
物騒でありながらも可愛らしい声に男は気づく。
無骨な銃が台無しにしているはずの愛くるしさを補って余りある無表情な顔の美しさに。
それが男が見た最後の光だった。
男は目を閉じる。すでに胸から吹き出す鮮血に男の声は奪われている。

「ごめんなさい。これが私の正義だから…」

男が聞いたこの世での最後の言葉は、幼い声質に似つかわしくない冷徹な音色をしていた。
男が聞いたこの世での最後の音は、今まで自分自身が奏でていた聞き覚えのある殺意に満ちた乾いた破裂音だった。

その音は、上空100mを静かに漂い状況を観察していたドローンにも届いた。


▽2019/10/15更新

オレはマイクのミュートを解除して、ドローンが映し出す少女に声をかける。
「アル。よくやった」
「あっ…はい…」
画面には、小型のヘッドセットから聞こえたオレの声に困惑するアルの姿が映し出される。
「えっと…」
アルの時間が少し止まる。アルの目にはさっき殺した男の亡骸が映る。

「アル。今日の仕事はここまでだ。帰ってきていいぞ」
「はい…」
困惑の残る声で返事をしたアルは空を漂うドローンを見上げる。

オレと出会っているような人間の人生は、そもそも終わっている。
大抵の場合、褒められる事も帰れる家もない。アルの困惑はその辺りなのだろうと思う。

などとアルに哀れみを感じている暇はない。アルが帰ってくるまでの間に大問題を片付けなければならない。
オレは、まだアルを抱いていない。犯していない。
抱くべきなのか否か。迷っている。

オレは、人様が遠路遥々と殺しに訪れてくれるほどには良い仕事をしている。
臓器売買で売り飛ばされそうになった少女を買い取って、ときには強奪して少女の恩返しが終わるまでの時間を共に暮らしていたりもしている。
売り飛ばされて心に傷を負い全てを疑って生きているような少女が、負い目を追わずに他人の家に住める状況が他にあるなら是非とも聞いてみたい。
文字通り躰一つで身を寄せている少女が自身の存在意義を持てる何かがあるのか。

アルは見た目こそ幼いが賢い。おそらく、自分の躰の使われ方はわかっている。可憐すぎる容姿に申し分は一切無い。
しかしアルは、躰一つで身を寄せているわけではない。普通ではない過去を持ち、侵入者を容易く殺せるスキルを持っている。
躰にスキルを伴って、この家に身を寄せてている。

「ただいま帰りました」
玄関のドアが開く音とともに、どことなく明るい声が聞こえてくる。
アルが運動神経に恵まれていることを忘れていた。予測よりもだいぶ早く帰ってきてしまった…

「失礼します」
玄関の真横にある仕事部屋の引き戸が開く。
結局、結論を出せなかった。しかし、焦ったような顔はしてはいけない。絶対に。
帰るべき家がない、ましてや人間としての禁忌である殺人を犯してきた少女は、リアクションを一つ間違えるだけに心に傷を負う。

「アル、おかえり。いい仕事だったぞ」

その言葉に、アルが完全にフリーズする。
まずい。やってしまったかもしれない。オレは言葉を間違えたのか、表情でなにか誤解を与えて傷つけてしまったのか、この数秒間の言動を急いで思い返す。

この絶望的で気の遠くなるような1秒にも満たない時間の後、アルは瞬きと共にフリーズを解除して口を開く。
「わたし、お仕事頑張ります。今まで教わったことをリュウのために使います。」

アルは無表情を崩していないが、その体をめぐる血がアルの頬を耳を肩を熱く赤く彩ってゆく。
泣いているようには見えないが、その目はみずみずしく部屋の天井のLEDを反射させている。小さな体もわずかに震えている。

(今まで教わってきたこと…)
アルは多分、自分の過去をネガティブに考えていた。でも今は、それをポジティブに捉えている。
もしかしたら、アルの人生の何かがここから始まったのかもしれない。
そういえば、アルに名前を呼ばれたものも初めてだった。

アルは幼さの割に賢明だが、やはり幼い。
自分の事で手一杯で男とともに暮らす意味なんていうものを完全に忘れているらしい。オレの苦悩なんて全く理解できていない。
オレは抱く機会を逸してしまったことに安堵感を覚えつつも、アルの可憐な体を完全に意識してしまった。
明日から、どんな顔でこの細い体を見ればいいのかわからない。下手なリアクションで心に傷を負わせるわけにもいかない…

とりあえず、アルの人生はここから始まった。そういうことにして、全てを忘れ一人で寝ることにした。

と、その次の瞬間。アルから意味不明な明るい声が聞こえてくる。
「あっ、わたしってやっぱ抱かれるんですか?経験ないからそういうのよくわからなくて…」

オレの思考は完全にフリーズした。
「いや、今日は疲れたから…」
そういうことにして、全てを忘れ一人で寝ることにした。
このときアルに向けた表情が、アルを傷つけていないことを祈りつつ…

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